健康診断の企画と事後フォロー

一般健康診断には、雇入時健康診断、定期健康診断(定期健診)、特定業務従事者・海外派遣労働者を対象としたものなどがあります。
私は、長期間、健康診断の事後フォローにも携わってきましたが、会社はもちろん、社員も、せっかく実施した健康診断の結果を有効に活用できていないように感じています。
今回は、健康管理の「一丁目1番地」ともいえる、定期健康診断についてお伝えしたいと思います。
下村労働衛生コンサルタント事務所では、以下のようなご相談に対応しています。

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職域では、定期健康診断などの一般健康診断・人間ドック・特定健康診断(特定健診)があり、相互乗り入れのかたちで実施されているのが一般的です。
健康診断の実務では、
「これらの健康診断の実施主体者は誰なのか?」
そして、「その目的は何なのか?」
ということを把握することが大事です。

定期健康診断の企画と実務について

定期健康診断の目的

定期健康診断の最大の目的は“労災を予防すること”です。職業性の中毒を除外すれば、労災と認定される内科的な病気のほとんどが脳・心臓病・精神疾患です。
健診後の実務でまず取り組むことは、健診結果を利用して、心臓病・脳卒中・精神障害といった病気をもつ社員や、こうした病気の発病リスクの高い社員をリストアップすることです。

実務では就業上の措置を判断することが重要

会社は、健康上の問題がある社員に対して、労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜勤務回数の減少、昼間勤務への転換などの配慮をし、労災を予防する義務があります。これを就業上の措置といいます。
具体的には、心臓病を抱えた社員や脳や心臓の病気になりやすい重症の糖尿病・高血圧やメンタル疾患を抱えた社員には、出張や残業はさせないといった、病気を発症・悪化させないための仕事の割り振りを行うことです。また、心電図異常が出た社員は、心臓病の可能性があります。労災リスクも高いので再検査などの結果によっては、就業上の措置をしなくてはいけない可能性もあります。定期健康診断は、こういった情報を集めるのが真の目的なのです。

既往歴と自覚症状にも注意

既往歴とは、医師が問診で今までにかかった病気について聴取した記録です。心臓病・脳卒中・精神障害病といった病気をもった人を見つけることが、ある程度可能です。
次に、自覚症状チェックです。不定愁訴(頭痛、イライラ、疲労感、不眠)の多い人は、肉体的・精神的な不調や病気が隠れていることが多いです。
定期健康診断の法定項目に既往歴と自覚症状の聴取が義務付けられているのは、会社は社員の申告に耳を傾けて配慮をしなさいという意味があります。そのくらい既往歴と自覚症状は重要な情報なのです。

定期健康診断のゴール

再検査・精密検査・治療の結果を追跡し、就業上の措置が必要か主治医・産業医の意見を元に判断し、それを守って仕事をさせるところまで行い、定期健康診断は終わったと考えるべきです。

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メタボ健診の実務

メタボ健診の実施主体と目的

特定健診の実施主体は、医療保険者(健康保険組合、全国健康保険協会、共済組合、国民健康保険組合)です。
肥満・高血圧・高血糖・喫煙歴・脂質異常の該当者や予備群を選抜し、改善のための保健指導をすることによって、生活習慣病の発症を予防し、国の医療費を削減することを目的に実施されています。
指導の対象になるのは、将来、心臓病や脳卒中になりやすい危険因子を持ち、生活が不規則な、肥満傾向がある中高年です。
検査結果が非常に悪くて、治療中の人や通院が必要な人は原則として対象外になります。
したがって「メタボでないから大丈夫」という考え方は、間違っています。

人間ドックの企画と実務について

人間ドックの主体と目的

人間ドックは、病気を早期発見して、治療に結びつけることが目的です。企業にとっては福利厚生的な意味合いが強い健康診断です。
人間ドックの実施主体は、社員です。その事後フォローの責任の所在も社員本人と実施した医療機関にあります。
人間ドックは、一般健康診断の内容に加えて、がん検診・眼底検査・ウイルス検査など豊富なメニューが魅力です。医師による詳細な結果説明を受けることができ、必要な場合は適切な病院を紹介してもらえることは、定期健康診断やメタボ健診にはない利点です。

がん検診が定期健康診断に含まれていない理由

がん検診が法定項目にならないのは、がんはアスベストのような特別な例外を別に考えると、私傷病であるため労働災害にならない病気と考えられているだからです。
あくまでもがん検診は任意・自己責任ということになります。
胸部レントゲン検査は、肺がんではなく、結核の予防のために実施されています。対して高血圧・糖尿病・心臓病・脳卒中は仕事が関連して発症・悪化することもあるため、会社で管理するという考えで健診メニューは設定されています。

事後フォローの勘所

優先順位を考えて効率よく

定期健康診断の見方

健康管理という仕事を効率よく、効果的に行うためには、仕分けを行って優先順位、リスクの高い問題から解決することも大事です。過重労働者、心臓病・脳卒中・精神障害病といった病気をもった人、こうした病気になりやすい重い糖尿病・高血圧症といった突然死のリスクの高い人社員の管理を優先して実施することが必要になります。
そのリストアップについては健診機関や産業医にリストアップを依頼するとよいでしょう。また、定期健康診断の事後フォローは、精密・再検査の受診率ばかりに気をとられず、結果が悪い人・労働時間の長い人から手をつけるべきです。

要治療者の対応はとても重要

要治療と判定されても、治療していない人が少なくありません。治療継続も結果が悪ければ、要治療よりもリスクが高いと考えるべきです。まず治療が必要と診断された人に目を向けるべきです。

職種により健康管理の基準が異なることに要注意

最近、てんかんの社員による栃木県鹿沼のクレーン事故や京都府祇園での暴走事故、睡眠不足の運転手による高崎の高速バス事故など、病気や体調不良による事故が多発して社会問題になっています。
運転業務者や高所作業者も、それだけで優先順位やリスクの高い社員と考えるべきです。危険作業中の社員が突然倒れて事故があれば、安全配慮義務違反になりかねないからです。
過重労働の面談と連動させる意味で、労災リスクの高い社員が長時間労働をしていないか、危険作業や運転などをしていないか、月に1回は確認することを強くお勧めします。労災に関連性の薄い健診項目や労働時間の短い人は後回しにし、まずは自己管理中心でという考え方もあります。

緊急事態に迅速に対応できる仕組みを

要再検査・要精密検査のフォローのポイントは、緊急性のある時に迅速に対応できる仕組みをつくることです。定期健康診断だけで、がんや心臓病といった生死に関わる病気が見つかることもあります。しかし定期健康診断の結果は、本人の手元に届くまで2~4週間かかるのが一般的です。要精密検査と記載してあるだけの結果報告書を送るだけの健診機関も少なくありません。
治療の時期を逸してしまわないよう緊急性のある病気は、本人に直接早期に連絡ができる体制がしっかり整っている医療機関に定期健康診断は依頼すべきです。

保健指導の一元化を

定期健康診断・人間ドック・特定健診は同じタイミングで共催の形で実施されているケースが多いですが、事後フォローは単独で実施されています。不効率になりかねませんので、保健指導の一元化は大きな課題といえます。健康診断は、社員・会社・健保・産業医・保健師・看護師医療機関のチームプレーで実施されるものです。
それぞれの健診の趣旨を理解できれば、実務は効率的・効果的になることを強調したいと思います。