非正規労働者の安全と健康

契約したばかりの大手学習塾の定期健康診断結果報告書を見て、びっくりしました。
従業員数400人受診者数(正社員)3名・・・・・
全雇用者の4割近くを占める「非正規雇用労働者(非正規労働者)」は、一般的に、正社員よりも労働条件が悪いにも関わらず。長期的な雇用でないため、安心して療養出来る環境が保障されません。
非正規労働者であればこそ社員・派遣元・派遣先が一体となって健康管理に力を入れるべきです。
非正規労働者の「安全と健康」に対応するためには、非正規労働の仕組みに関する正しい知識を持ち、非正規労働者の生活習慣、ストレスについても理解することがとても大事です。
当事務所ではこんなご相談や派遣会社・チェーンストア・小規模分散事業所からのご相談に対応しています。

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さまざまな働き方の中で

一般的に非正規労働者とは、雇用期間が限定されていたり、労働時間が短かったりといった条件下で働く社員や労働契約先が異なる派遣社員などを指します。

派遣社員

正社員・契約社員・短時間労働者が働く先と直接雇用契約をするのに対して、派遣社員は、派遣会社と雇用契約を結びます。
その契約の仕方もいろいろあります。派遣会社に登録して、その後、派遣会社から、いわゆるお仕事の紹介を受けて就労することを登録型派遣と言います。派遣期間が設定され、その期間中のみ、派遣会社との雇用関係が生じます。
派遣会社に常用雇用の従業員として入社し、その立場のまま派遣先で働くことを特定派遣と言います。正社員ではあるが派遣労働者でもあるという働き方です。特定派遣は、エンジニアなどの専門職を派遣する技術系の派遣会社に多い形態です。登録型と違い、派遣会社の常用従業員ですから、派遣先が決まらなくても給料は安定して支払われ、病気になっても休職することができます。そのため特定派遣を扱う会社は、登録型よりも健康管理に関して熱心な会社が多いと言えます。

契約社員

雇用契約を結んで正社員と同じ時間で働く契約社員も非正規社員です。
契約社員は、正社員に比べて労働契約が有期かそうではないかの違いしかありませんので、原則的には正社員と同じ健康管理が可能とも思えます。
しかし働く側が続けて働きたいと希望しても、会社側が更新を拒否すれば、期間満了をもって自動的に雇用関係は終結します。そのため、身分が不安定で、正社員より仕事ができても待遇が低いというストレスを抱えがちな働き方です。

出向社員

特定派遣に似た雇用形態に、在籍出向があります。雇用関係にある企業に在籍をしたまま、関連会社で業務に従事する形態です。この場合、籍は出向元企業にあり、業務上の指揮命令権は出向先企業にあるとされます。

嘱託社員

高度なスキルを持った人に特別な待遇をするケースもありますが、定年退職した後、再び会社と雇用契約を結ぶ場合がほとんどです。

短時間労働者

正社員より労働時間が短い労働者のことを短時間労働者と言います。
代表的な短時間労働者はパートタイマーとアルバイトです。両者の違いに明確な定義はありませんが、一般的には、パートタイマーは短時間、アルバイトは短期間の労働者としての意味で使われることが多いようです。学生だとアルバイト、主婦だとパートと呼ばれることが多いのはこのためです。

非正規労働者の健康保険と健康診断

健康保険の注意点

短時間労働者は、社会保険の加入状況がまちまちで、一元的な健康管理が難しくなります。
しかし、短時間労働者であっても、勤務時間と勤務日数が正社員の4分の3以上となる場合、事業者には健康保険や厚生年金保険に加入させる義務があります。
短時間労働者は、年間の収入が一定額を超えると、両親や配偶者の健康保険組合に加入することができなくなります。
そうなると、就業先の所属する健康保険組合または居住地の自治体が運営する国民健康保険に加入する必要があります。
しかし短時間労働者にとっては、保険料の負担が大きいため、未加入が増えているのが現状です。健康保険証を持っていないため病気になっても病院に行けない、健康診断を受けていないという短時間労働者が少なくないと考えるべきです。
これは共に働く社員・企業にとっても安全・健康リスクの高いことです。ですから入社時に健康保険証の確認を行い、未加入者には必ず加入させることが大事です。

健康診断の注意点

定期健康診断は勤務時間と勤務日数が正社員の4分の3以上であり、1年以上の雇用の予定や実績がある社員に対して実施が必要になります。
短時間労働者は入れ替えが激しく、最初から1年契約で採用されるケースが少ないため、しっかりとした雇用時健診を実施している職場が少ない傾向があります。
安全配慮義務を履行するためには、健康状態の確認が不可欠です。短時間労働者であっても健康診断を受診させることが望ましいといえます。予算に制約があれば、採用時に扶養者(夫)の会社の主婦健診、前の職場での健康診断、地方自治体が実施する住民健診、学生であれば学校健診の結果を確認するといった方法があります。

その他の注意点

ダブルワーカーに注意

一般的に正社員の兼業は禁止されていますが、非正規労働者は別の会社で働くこともできます。そのため、非正規社員の中でも定時勤務ではない短時間労働者は、午前はスーパー、午後はファミリーレストラン、夜は配送業務と、正社員以上に無理を重ねる人も少なくありません。よって、短時間就労だからといって、過重労働をしていないとは限りません。
そこで当日の体調確認を念入りに行うことが重要となってきます。

生活優先の働き方に注意

短時間労働者であるパート社員は、就業時間に関してプライベート中心の人も多く、正社員とは考え方がまったく違うことを忘れてはいけません。
特に主婦の場合は、子どもの送り迎え、介護、次の仕事、夫の帰宅と時間に追われて行動する傾向があります。業務上や通勤時の思わぬけがを防ぐためにも、こうした状況に配慮した安全教育を実施すべきです。契約・更新時には健康状態や家族の状況、兼業の状況といった、個々の生活パターンをしっかり確認し、無理なく健康で安全に働いてもらえる内容の労働契約を結ぶべきです。

派遣労働者の健康管理

忙しい会社の助っ人として働くのが派遣労働者です。派遣労働者は、常に忙しい職場で働くことを求められています。そのため過重労働になりやすいにもかかわらず、就労先が分散しているため、雇用主(派遣元)の目が行き届きにくく健康管理が難しいと言えます。
派遣労働者の定期健康診断や過重労働面談の実施義務は派遣元、特殊健康診断は派遣先で実施することとなっており、健康管理に対する措置義務は派遣先、派遣元の双方に課せられています。責任が「雇用先」と「就労先」に分離されるため、お互い譲り合い押し付けあって健康管理がなかなか進まない傾向があります。
したがって派遣元には、賃金面だけでなく、健康管理に熱心な派遣会社を選ぶことをお勧めします。

出向者の健康管理

出向元と出向先の両方とそれぞれ労働契約関係があるため、健康保険組合・健康診断の内容・産業医が出向先と異なることがあり、健康管理がなおざりになりがちな働き方と言えます。
出向で規模の小さい会社に移ると不慣れな職務をこなさなければならないことも多く、プロパー社員との摩擦をきっかけにメンタルヘルス不調のきっかけになることもあるので注意が必要です。
これらを踏まえ派遣労働者・出向社員の健康管理は、派遣(出向)元・派遣(出向)先が協議してお互いの守備範囲を決めて、それを確実に遂行することが大事になります。

本人の意思、ストレスよく考え正社員に

長引く不況の影響を受け、労働条件が良く雇用が保障された正社員志向が急激に強まるとともに、行政は労働契約法を改正し、非正規雇用で働く労働者に対して正規雇用への転換を強力に推進しています。
一方で、非正規労働者は、組織に縛られず、自分の都合に合わせて好きな仕事で働けて、責任も軽く、残業や休日出勤、ノルマ、降格が少ないというメリットがあります。したがって、場合によっては非正規労働者が正社員になるということは、大きなストレスを受けるということもあります。その点を考慮し、本人・関係者は登用の可否を判断すべきです。
非正規労働者の「安全と健康」に対応するためには、非正規労働の仕組みに関する正しい知識を持ち、非正規労働者の生活習慣、ストレスについても理解することがとても大事です。

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