メンタルヘルスマネジメントの実務で、担当者が特に頭を悩ませる問題が「復職」です。メンタルヘルス対策は、社員の復職がうまくいってはじめて成功になります。
私事ですが、内科の病気で3カ月休職して復職した経験があります。復職前の不安感や緊張感は大変辛いものがありました。
体調を崩した社員を上手に職場に戻すことこそが産業医の腕の見せどころとなります。下村労働衛生コンサルタント事務所では特に「復職」に力を入れています。

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上手に職場に戻すための留意点

①早計な職場復帰は失敗のもと

仮に復職に失敗すれば、本人のダメージも大きく、再復帰のハードルも高くなります。職場に復帰する時期の決定や準備は周到に行うべきです。
しかし、メンタルヘルス不調(精神疾患)では、復帰直後に欠勤したり、再度、休職になったりすることも少なくありません。
これには、“早く戻らなければいけない”といった焦りから、回復していないのに見切り発車的に復職を強行する休職者患者の方や、会社の状況に無関心な主治医、メンタルヘルスに対応できない産業医が少なくないことに原因理由があります。そうならないよう、職場復帰は焦らないことが肝要です。

②職場復帰の話は本人の状況を見て進めていく

たとえ、本人から復職希望が出ても、主治医の許可が出ていることを確認すべきです。また“復職可能”との診断が出た場合でも、多くの人は寛解(完治)しているわけではありません。
一時的に回復しても体調がまた悪くなることも少なくありません。
仕事へのモチベーションや精神的安定状態が一定期間、維持できるかどうかを復職前に確認することが必要です。
復職希望者が十分睡眠を取れていること。通勤できる時間帯に起床し、日中は元気に活動できるかどうかを確認します。
規則正しい生活が取り戻せていない復職希望者には、それが確認できてから、職場復帰の話を進めるべきです。

③通勤練習

また、日常生活に支障はなくても、仕事ができる状態であるとは限りません。久しぶりの通勤は大きなストレスになります。
1~2週間程度、満員電車に乗って、ちょっとだけ職場に顔を出してもらい、図書館などで過ごし夕方に帰る。これが正式な復職前にトレーニングとして取り入れたいことです。
もし復帰が早すぎるようなら、本人は不調を自覚しているはずでますから、休職を延長するなどいろいろ相談することもができます。本人の焦りに復職に関わる人たちが引きずられないことが、復職の大きなコツといえます。

④主治医と産業医の意見を聞く

主治医は、日常生活における回復程度によって、職場復帰の可能性を判断しているにすぎず、職場で求められる回復程度で判断しているわけではありません。
医師の「就業可能」は、会社でバリバリと仕事ができることを意味しません。
特に診断書に「就業可能」と記載されていない診断書、「短時間、軽作業なら可能」と記載されている場合、診断書で復職を決定するのは危険です。
診断書に懸念があるようなら、診察時に休職者とともに医師を訪ね、主治医と直接面談してアドバイスを受ける必要があります。
主治医には会社の業務内容や休職期間規定についてしっかり説明し、復職時期・残業の可否・復職場所・試し出社・短時間勤務の必要性について意見を聞くべきです。
また、産業医との面談も設定して、本人の希望・主治医の意見が妥当なものか意見をもらうことも重要です。
復職の可否・労働条件は、安易に本人や主治医の希望を丸のみにせず、産業医のアドバイス、会社の事情や就業規則も考慮に入れて決めるのが原則です。
長期間の休職であれば復職前に定期健康診断を実施し、必要により検査や治療を受けさせることが大事です。
仕事と通院ができるだけバッティングしないような調整も必要です。

⑤復職後のルールを決める

さらに忘れてはいけないのは、復職後に「遅刻欠勤・欠勤・早退」といった体調不調の兆しが見られたらどう対応するのか、あらかじめ決めておくことです。
たとえば、「月に3回以上遅刻をしたら再休職」といった会社の考え方を、本人・主治医・家族に納得してもらうことが肝要です。
うまくいかなかったときのルールを決めておくことは、復職と休職を繰り返さないため、後々のトラブルを防ぐためにも重要な点です。その場しのぎの対応にならないために、復職のルールは労使が話し合ってあらかじめ決めておくべきです。
本人や主治医の希望を安易に受け入れず、産業医の意見、社内状況や就業規則も考慮してルールを決めましょう。
本人・主治医・家族に納得してもらうことで、休職を繰り返すことや、事後トラブルを防ぐことができます。

復職支援システム

試し出社制度

復職がうまくいくかは、実際やってみないとわからないことです。そこで、復職決定前にワンクッションを置く「試し出社制度」が広まっています。
試し出社とは、本来の職場などに試験的に一定期間継続して模擬出勤することです。この制度は、本人にとっては復職の支援、会社側には無謀な復職の予防というメリットがあります。
「試し出社制度」には2つのやり方があります。1つは、定時勤務ができるまで休職扱いにするやり方です。
正式な就労ではないので、気楽に取り組めるというようなメリットがあります。
しかし一方で、労災保険の問題や、実際に仕事をすることはができないというデメリットもあります。
もう一つは、仮復職として行うやり方です。仕事が可能で、労災保険も適用応されますが、これに失敗すると再休職になり、次の復職のハードルが高くなるという問題点があります。周囲への負担を考えると、職場復帰に不安がある場合や長期間の休職時には、休職扱いで実施するのが無難と言えます。
試し出社は、それを行ったことで復職希望者に「もう復職できるもの」と誤解されやすいので、試し出社中の結果成績によって復職の可否が決まることを、本人やそのご家族に十分納得してもらうことが必要になります。

復職プログラム

メンタルヘルス不調による休職者は、症状が改善して復職できても、復職してしばらくすると病状が悪化し再発することも少なくありません。
その予防と復職がうまくいくように支援するという意味合いで、試し出社後に、短時間・軽い業務のリハビリ勤務(復職プログラム)を実施する会社も増えています。
最初の1~2週間は、半日勤務とし、慣れてきたら徐々に就労時間を伸ばしていき、1~3カ月ぐらいで、フルタイム勤務、定時での出退社ができるように支援していきます。

復職支援で一番大事なこと

時間を誠実に区切ることが一番大切です。
回復までフレックスタイム制・変形労働時間制・裁量労働制・みなし労働といった不健康な制度は適用しないのが原則です。
「遅刻も残業も悪いこと」という考え方を社員・上司に徹底することが復職を成功するための一番大事なことと言えます。
定時での出退社にもかかわらず、体調不調の兆しがみられたら、産業医や主治医、家族に連絡をとり、ルールに則って、プログラムの変更や中止を決定することが必要です。

外部支援の活用と再出発

都道府県の障害者職業センターや精神保健福祉センター、精神科の病院やクリニックでも「デイケア」としてメンタルヘルス疾患の休職者中の方の職場復帰が円滑に進むよう、休職者、主治医、事業場所担当者と相談しながら、職場復帰に向けてのウオーミングアップ支援をしています。
前出のリハビリ出勤務の制度やそのノウハウがなかったり、復職に難渋しそうなケースを抱えたりしている会社は、こうした施設を利用する方法もあります。
メンタルヘルス疾患では、会社自体がその人の病気の原因になっていることもあります。退職が決まると、うそのように病状気が良くなる人も少なくありません。
うつ病で退職しても次の会社で大活躍している人を、私は何人も知っています。会社に残ることが必ずしもその人の幸せつながるかどうかは分かりません。場合によっては早めに退職してもらうということが、その人にとっても幸せと回復につながることもあります。たとえ復職に失敗しても、その経験が社会復帰に向けての糧になれば、成功したと考えることもできます。
復職に関する実務担当者のなすべきことは、関係者と連携を緊密にとって就業規則や復職のルールに沿っても復職できなければ、復社を目指します。それもかなわなければ、まずは社会復帰できるよう、誠意を持って大きな視点でサポートすることが大事ではないでしょうか。