最近、70歳を迎えた社員の復職相談を受けました。本人は「心筋梗塞は軽く、今は元気で毎日運動している。主治医の許可もある」と復職を希望されましたが、産業医として「就業可」とすることにためらいました。

背景

義務化された65歳までの継続雇用

厚生年金の支給開始年齢が引き上げられ、定年から年金支給までの生活維持が大きな課題となりました。
この問題を解決するため、改正高年齢者雇用安定法が施行され、原則的に希望者全員を65歳まで継続して雇用することを会社に義務付けました。

加齢によって高まる健康リスク

加齢に伴い、社員の健康・体力・注意力は低下し、病気やけがのリスクは高くなります。高年齢労働者の安全と健康管理は会社にとって大きな課題です。
少子高齢化に伴って、社員の高年齢化も進んでいます。「生涯現役」といったライフスタイルを確立させるためには、健康管理の充実が求められています。
経験豊富な高年齢社員に元気に働いてもらうためには、高年齢者の身体・健康上の特性を健康管理担当者が理解しておく必要があります。
高年齢労働者は、清掃業・警備業。・ビルメインテナンス業といった事業所で増えています。
下村労働衛生コンサルタント事務所では、以下のような相談に対応しています。

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まず取り組むべきこと

40代からの健康管理の徹底

65歳までしっかりと働ける社員を育てるために、できるだけ早めに手を打つ必要があります。
暴飲暴食・喫煙・運動不足・睡眠不足といった不規則な生活習慣を改めるよう、若いときからの健康教育が不可欠です。
特に40~50代の健康管理は充実させるべきです。50代以降は人間ドックなどで診てもらい、健康診断後の事後フォローも徹底します。健康上の問題をできるだけ解決させ、雇用延長に備えてもらいます。

高年齢化する女性社員の健康管理の充実を

男性だけではなく女性の視点に立った健康管理も強化する必要があります。1985年に男女雇用機会均等法が制定され、当時採用された女性は50代になっています。
女性が多い会社では、「高年齢化した女性の健康管理」に向き合う時代を迎えつつあります。

50代健康診断メニューの充実

定年後の雇用の延長(継続)といっても、労働契約を大幅に変更することになります。事実上の再就職ともいえます。したがって、定年前、最後の健康診断は雇入れ時健康診断と同じと考えるべきで、通常の定期健康診断のメニューでは不十分です。
高年齢者に多い慢性疾患は、長期的な取り組みが必要なため、59歳時に充実した健康診断を実施し、再検査・精密検査・治療の結果がわかってから継続雇用条件を決定すべきです。

延長時配慮すべきこと

身体機能や体力の衰えに配慮を

安全面から、視力や聴力低下といった問題にも目を向ける必要があります。加齢とともに平衡機能・反射能力・下半身の筋力が低下していきます。高年齢者はこうした身体機能の低下に気づかず、気持ちだけが先行する傾向があります。
高年齢労働者は「転倒」や「転落」により労災が発生している確率が高く、重篤な結果を招く傾向があります。ベテランでも注意が必要です。
したがって、企業が雇用継続者の身体能力も把握し、安全教育を再徹底することは、重大労災を予防する観点から考えると欠かすことはできません。
特にブルーワーカーの多い職場は注意が必要で、延長前後の健康診断にはぜひ健康測定やスポーツテストのようなものを取り入れたり、設備の自動化を進めたりする必要があります。
高年齢者は、ちょっとした段差でつまずき転倒し、骨折することがあります。
危険作業がない事業所であっても、段差の解消、スロープ、手すりの設置、高性能ディスプレーの導入、トイレの改修といったバリアフリー化や4Sの推進を検討する必要があります。

加齢と共に高まる健康上のリスクを踏まえた会社の対応

高年齢者が増えてくると、持病をもった人が増える可能性が大きくなりてきます。一個人の健康格差は入社時に一番小さく、加齢とともに大きくなっていきます。
一律に同じ仕事に従事することは、安全・健康面では無理があると考えるべきです。
ですから、高年齢者を継続雇用する場合は、従来の職務をそのまま継続してもらえればそれでよいという考え方はとても危険です。雇用継続時の就業場所・職務・労働時間については、会社・本人の希望や都合だけでなく、健康状態・体力・注意力を勘案して決定すべきです。
健康面で不安のある再雇用継続者に対しては、勤務時間・日数を短くしたり、肉体的な負担の軽い業務を割り振ったりするような配慮も必要になります。
特に危険作業や運転作業などは、「無理をさせない」「必要に応じて業務を転換する」といった注意が必要です。関連会社や子会社で働いてもらうということも選択肢に含め、高年齢者の安全やの健康に配慮できる職場の確保をすることも重要です。

体調不良と過重労働に配慮を

60歳を過ぎると、がん・メンタルヘルス疾患・神経病・心臓病・脳血管疾患といった罹患(りかん)率が飛躍的に高くなります。長時間労働・深夜勤務・海外出張には、特別な注意が必要です。
健診メニューの充実した人間ドックをしっかり受けてもらうことと同時に、体調不良の兆しが見えたら主治医や産業医と連携をとり、臨機応変に休職や労働条件の変更を行うような配慮も大事になります。

メンタルヘルスにも注意

雇用延長(継続)してもほぼ変わらない職種もありますが、一般的には給与が大幅に減り、肩書きもなくなります。
また、仕事内容が変わってしまうケースや、かつての部下が直属の上司になるケースもありえます。こうした待遇の変化は、職場不適応型メンタルヘルス不調の大きな原因になりえます。それゆえ注意が必要です。

これからの課題高年齢者の長所を活かせる体制の整備

高年齢者は体力や健康面で劣ることが多いのですが、長年蓄積した経験や人脈は若手には負けません。その長所を活かせるような配置と年長者を尊重する体制を構築し配慮することが、モチベーションアップやメンタルヘルス健全化につながります。
日本の会社は、社員の高年齢化を迎えようとしています。若手や女性だけではなく、働く意欲・健康・能力のある高年齢のベテラン社員が長く元気に働ける体制づくりは、どの会社にとっても大きな課題です。
高年齢者にとって健康的で働きやすい職場をつくるということは、ひいては会社の発展のためになるのです。