障がい者雇用の安全と健康
背景
法による障がい者雇用の促進と義務付け
障がい者の民間企業法定雇用率が引き上げられ、障がい者を雇用すべき事業主の範囲が従業員56人以上の事業所から50人以上の事業所に変わりました。
障がい者雇用は、着実に進展していますが、法定雇用率を上回った企業は47%であり、特に、中小企業の取り組みは遅れています。
作業や業務をきちんとこなせる障がい者を採用し、安全かつ健康的に就労させ、会社に貢献できる人材として育て上げるノウハウの蓄積が企業には求められています。
「障がい者を雇用したいが、どう探したらいいのか分からない。」
「せっかく雇用したのにすぐ辞めてしまう。」
障がい者雇用においては、しっかりと仕事ができる人材を探すのは容易ではなく、すぐにやめてしまう場合も多いため、完全に売り手市場だといえます。
「お互いこんなはずではなかった…」という状況が生み出されることが多いのが障がい者雇用です。
障がい者雇用におけるミスマッチを予防するために、産業医をぜひ活用していただきたいと思います。
私自身も障がいを抱えているために、障がい者雇用の相談には積極的に取り組んでいる次第です。
下村労働衛生コンサルタント事務所では、こんな相談に対応しています。
関連する相談事例をご覧ください(画像をクリック)
求人の注意点
① 障がい者と企業をつなぐ大事な役割、採用担当者の選任
障がい者雇用における採用担当者に求められるのは、豊富な人生経験と温厚で優しい人柄です。
障がいによる症状(障がい特性)やハンディキャップの苦しみが容易に想像できる方でないと務まりにくいと考えます。
会社の実情に精通していない社員や元気な若手社員を採用担当者に選ぶのは適切ではありません。障がい者の相談や悩みなどに幅広く対応できる造詣が深い人を選任すべきです。
② 情報収集のために公的機関などを活用しましょう
障がい者雇用促進のため、ハローワークでは多様なセミナーを開催しています。多くの成功事例や、助成金・補助金の仕組み、障がい者雇用に熱心な会社(特例子会社等)の担当者の紹介などを行っています。まずは、ハローワークを活用して情報収集します。ハローワークには、障がい者雇用担当官がいて、適切なアドバイスをもらえますし、障がい者就労支援の施設や機関を紹介してもらえます。
また、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構が、障がい者雇用に関連して多くの情報を提供しています。採用担当者は、情報収集をして、障がい特性を理解し、適切な対応ができるようになります。
③ 障がい者雇用における求人の出し方
求人の出し方には、ハローワークのほか、大学・高校・中学、専門学校、特別支援学校、職業能力開発学校、障がい者職業リハビリテーションセンターの進路指導者に向けたものや、新聞・雑誌への広告掲載、職業紹介所を通じてあっせんしてもらう方法などがあります。また、軽度の障がい者求人においては、一般採用と同じ普通の形で応募をすることもあります。
良い人材を獲得するチャンスですから、送られてきたエントリーシートを漏れなく確認することが大事です。
④ 求職者に具体的な情報提供を
障がいのある求職者は、勤務条件や職場環境に関して制限があります。
労働時間、通勤や業務場所のバリアフリー、休憩室やトイレ、防災体制、安全・衛生管理者・産業医などの安全衛生管理体制などに不安を抱えています。
会社として障がい者にどのような配慮をしているかの情報を全てわかりやすく求人情報に記載することが応募者を増やすことにつながります。
採用決定時の注意点
障がい特性の把握と関係者のヒヤリングは必須
原則的に、障がい者雇用に該当するかの確認は、身体障がい者手帳・療育手帳・精神障がい者保健福祉手帳により行われます。採用面接時に手帳の提示を求め、できるだけ詳しく障がいの程度や病状、職場で必要な配慮などについて、しっかり確認しましょう。
障がい者求人では、早く働きたいと焦る人や仕事や業界のことを何も知らない人からの応募、支援している人の反対を押し切って応募をしてくる場合も少なくありません。
本人の希望は大事ですが、主治医や、支援している人・機関・学校などの意見もヒヤリングし、参考にすべきです。
通勤災害には特に注意を
最寄りの駅・バス停・駐車場から作業スペースまでのバリアフリーの状況をしっかりと把握する必要があります。
また、通勤災害は、誰にでも、雪や雨の日、日の沈む冬場の夕方に起きやすいことは、頭に入れておくべきです。
災害時のことを考え、低層階・避難口に近い場所に作業スペースを設けるなどの配慮も必要です。
通勤については、基本的には自己責任です。時差出勤や家族に送迎をお願いする、会社の近くに引っ越すという方法をとってもらうようにします。
家族・支援機関・主治医との連携
採用する方向になれば、主治医・保護者・学校の担当教諭・支援機関担当者との面談を実施し、障がい特性・必要な配慮について、最終確認を求めます。
主治医との面談は欠かさないようにしたいものです。障がい特性や病状はもちろん、体調不良時の対処・緊急連絡先も確認すべきです。
採用前に産業医による面談実施もできれば、それに越したことはありません。
障がい者雇用でできるかぎり長く働いてもらうためには?
離職理由の確認と待遇
障がい者のなかには、離職を繰り返している人も少なくありません。その理由や前職の職場環境などを参考までに把握しておくべきです。
障がい特性に応じて労働条件を調整することはありますが、障がい=仕事の能力ではありません。障がい者雇用であっても「待遇は能力や会社に対する貢献で決まる」という姿勢が、早期離職予防になります。
障がい特性を知ることはとても大事
昼休みは、みんなで過ごしたいという人もいれば、一人になって疲れを取りたいと考える人もいます。障がいには個性があり、障がい者にとっての理想的な働き方はさまざまです。生活環境の変化・職場のストレスや加齢によって病状や障がいの程度は変動します。
定期的にフォローし、必要に応じて臨機応変に労働条件などを変える必要があることは頭の片隅に置いていただきたいことです。
素直な性格や即戦力 障がい者雇用にはメリットも多い
療育手帳を所持している知的障がいの人は、素直な性格で会社のルールや指示に誠実に従う方も多いので、仕事に慣れると成果も出し、長期的に安定して就労してもらえることも多いです。一方、精神障がいの人は、まじめな性格で発症前は成績優秀で管理職に就いていた場合もあり実務経験が豊富で、病状が安定していれば即戦力として活躍できる可能性があります。
障がい者雇用では「お互いこんなはずではなかった…」といった問題が出てきます。採用前に、ここで紹介してきた方法に沿って正確な情報の確認をし、必要な配慮ができるかどうかをしっかり見極めたうえで採否を決定することが特に重要となります。
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