過重労働の対策実務(過重労働面談)
長時間労働者にはどのように面談指導を実施すべきか?
長時間労働から社員を守る制度として、36協定や過重労働面談制度などがあります。労働安全衛生法は、「事業者は、労働者の週40時間を超える労働が1月当たり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申出を受けて、医師による面接指導を行わなければなりません。」と規定しています。
会社は、過重労働面談制度を社員に知らせ、月100時間以上の時間外労働者に最低月1回、面談希望や健康状態を確認し、希望者に面談を実施、診療を受けさせる責任があります。これは、会社に義務付けられた最低限の過労死対策だといえます。
面談者は、産業医が理想です。50人以下の企業であれば、産業医ではなくても最寄りの医療機関の産業保健に理解がある医師であれば大丈夫です。
特に零細企業や地方営業所の担当者の面接指導における最初の業務は、面談を実施してくれる医師探しになります。下村労働衛生コンサルタント事務所は、そのお手伝いからさせていただきます。
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面談前の準備のポイント
会社の実情に応じた体制づくり
時間外労働100時間というキーワードにこだわらず、時間外労働が1月当たり80時間以上の社員や面談希望者、健康状態に不安な人など、できるだけ多くの社員に面談を実施し、医師による健康管理を行わせることが理想です。
過重労働面談を円滑に実施するためには、経営者・管理職・労働組合・産業保健スタッフが、よく話し合って会社の実情に応じた体制をつくることが重要です。
つまり「衛生委員会」で過重労働対策について活発な議論をして、面談基準などをつくっていきます。
主な面談基準
- 面談実施者の取り決め(産業医・医師・保健師・看護師)
- 問診票のフォーマット
- 面談後の検査費用負担(会社負担にするのか社員負担にするのか事例を線引き)など
- 希望しない人への対処
これらを、時間外労働100時間以上、80時間以上、45時間以上の3つに区分して細かく取り決めをしてほしいのです。
問診の意義について社員のしっかり説明することが大事!
過重労働面談では問診を実施します。問診とは、医師が診断の手がかりを得るため、社員から仕事の状況・体調・気になる症状・既往歴などを聞き出すことです。
面談希望社員は、相談したいことがあるわけですから、有意義な面談になる可能性が高いです。しかし、そうでない人は、短時間で無意味な面談になりかねません。
そうならないよう、過重労働面談は、過労死・過労自殺・労災を予防するための大事な面談であることを社員に説明することが大事です。
過重労働面談を上手く実施する問診票づくり
前述したように、衛生委員会で協議して過重労働面談や受診までの流れや一定のルールをつくります。
過重労働面談制度を知らない開業医や勤務医もたくさんいます。そのため、健康診断のように、医師に丸投げすることはできません。
会社の実情に合った問診票のフォーマットを用意することが実務上の大きなポイントになります。
問診票のフォーマットづくりには、(公財)産業医学振興財団の「面接指導チェックリスト・マニュアル」や厚生労働省の「労働者の疲労蓄積度チェックリスト」を利用すると良いでしょう。
問診票の質問は細かくて多いほうが、過重労働面談がやりやすくなります。しかし、時間外労働が多く忙しい社員にとっては負担になります。社員に負担になりにくいシンプルなもので健康状況も把握できるものを衛生委員会などで議論しながら作成できれば理想的です。
過重労働面談が有意義になるよう、上図にあるものを担当者は準備または社員に用意させます。
過重労働面談のポイント?
① 既往歴の確認
労災に直結しやすい。心臓病・脳卒中・重症糖尿病・重症高血圧・治療が必要な不整脈や精神疾患などの持病について、面談を通じ、プライバシーに十分配慮しつつ、この機会に把握して、就業上の配慮(深夜勤・残業・出張の禁止)等が必要かどうか、会社が確認することが重要です。
② 職場いじめなどを見抜く
会社という大人の世界で、子供じみたことはありえないと信じたいのですが、労災認定の判例でも職場いじめが社員を死に追いやった事例が記録として残っています。
パワハラ・セクハラ・モラハラの手段として過重労働が利用されていないか職場いじめで孤立していないかなどをチェックすることも必要です。
③ 社員の疲労や体調を見抜く
面談をする医師や保健師は、疲労の蓄積や体調の悪化を把握するうえで、その症状が一定期間継続していないか? 生活や仕事に支障が出ていないか?に着目します。
直近の健康診断の結果も確認し、必要に応じ時間外労働の禁止・受診勧告をします。
疲労の蓄積・体調の悪化がないのか、関係者は医師の見解をしっかりと確認して必ずその意見を尊重してください。
面談後考えなくてはいけないこと
時短をすすめるための着眼点
段取りが悪い・勤務に集中できないなど能力の問題や本当に忙しいなど人材確保の問題だけではなく、手当がほしいなど経済的理由、早く家に帰りたくないといった家庭の問題、上司や同僚の評価が気になって帰れないなど人間関係などが残業理由になっている場合があります。
うつによって集中力や判断力が低下し、長時間労働につながっていることも少なくはありません。仕事量は変わらないのに、時間外労働が増えた場合、病気の症状ではないかという発想や見抜く力が大事となってきます。
時短を進めるために・・・
段取りが悪いなら仕事量を減らし、得意分野を任せれば良い。
本当に忙しい場合は人を確保すれば良い。
経済的に苦しい場合は、生活相談に乗る。
家庭に問題があれば、配偶者を交えた面談を実施する。
体調が悪い社員は治療を受けさせれば良い。
このように事後フォローを行えば、時間外労働は減るでしょう。そのためにも産業医と担当者は連携して、社員によって異なる長時間労働の原因を問診で探り、把握していくことが求められます。
十分な睡眠時間を確保させることが重要
厚生労働省は、1カ月100時間、2~6カ月平均で月80時間、長期間では月平均45時間以上の時間外労働があったかどうかを労災認定の基準としています。
この数字は、労働者が6時間以上睡眠をとった場合は、脳や心臓疾患のリスクは少ないが、5時間未満であればリスクが増加するという、疫学的研究を基に設定しています。
特に体調を崩しやすい冬場の長時間労働者に対しては、睡眠時間を十分確保できるよう、通勤電車内や昼休みに少し寝る、賃貸であれば会社の近くに転居する、ときにはホテルなどに泊まり通勤時間を減らすなど、指導・対応をしなければなりません。
過重労働面談は改善できるまで終了しない中長期戦です
問診票の内容と産業医の意見を確認し、以降、長時間労働にならないように会社側で対策を実行し、改善できてはじめて過重労働面談終了となります。過重労働面談は、1時間で終わるものではなく場合によっては1年かかる中長期戦になるのです。
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