過重労働の対策実務(時間管理)

「過重労働防止」のスローガンを掲げている会社や事業所はたくさんあります。しかし、長時間労働の問題は解消されていないのが実情です。
私も病院で勤務している時、月200時間以上の時間外労働時間で働いたことがあります。
不眠・動悸・不安感といった症状に悩まされ、体調を崩した同僚を沢山みてきました。私自身も体調を崩し、「病院を辞めようか」と悩んだ経験があります。こうした辛い体験から、是非事業主の方に過重労働対策に取り組んでいただきたいと思います。

働き過ぎという悪しき生活習慣病をどう改善するか?

日本人は「働き過ぎである」「エコノミックアニマルである」と、20年以上も前から、海外で批判されてきました。我が国の平均寿命は、働き過ぎの批判を浴びながらも延び続け、世界有数の長寿国となりました。しかし、リストラ、終身雇用制の崩壊、成果主義の導入など、職場での緊張感も高まり、社員の不安は増大する一方で、世界一元気だった日本のビジネスマンは、体調を崩し精神疾患を患うようになって過労死・過労自殺が増加し、社会問題となっています。
食べ過ぎ、お酒の飲み過ぎ、タバコの吸い過ぎのほか、仕事中心で運動不足という日本のビジネスマンの現状に関しては、健康指導のツールやノウハウも確立され、たとえば、ニコチンパッチや嫌酒剤なども開発されています。
しかし、過重労働に関する有効な保健指導の方法は確立していません。
「働き過ぎにつける薬」はあるのでしょうか?

下村労働衛生コンサルタント事務所では、これまでの長い実務経験、社会保険労務士としての知見を活かし、効率的な過重労働対策の実務・上手な時短促進方法をアドバイスしています。
今回は特別に、その一部をご紹介したいと思います。

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時短に向けて・・・

①会社にとって厳しくなった労災認定基準

労災の基準昭和63年までの労災の認定基準は『発症の当日に、特に過激な業務に従事したことによる肉体的・精神的負担がなければならない』とされてきました。
過重労働が社会問題になるにつれ、労災の認定基準は「当日」から「1週間」になり、平成13年から「6ヶ月」に延長されました。認定基準が当初の1日から半年に延長されたことで、労災の認定件数はこれを境に増加しました。
長時間労働に関する労災の認定基準は、下図のようになっています。

②「残業」と「時間外労働」は明らかに違います

時間外労働時間の算出式労働基準法は、1週間に40時間、1日に8時間を超えて働かせてはならないと規定しています。
過重労働対策では、1カ月の労働時間のうち、週40時間の法定労働時間を上回っている時間がどれだけあるかが健康管理では問題になります。

時間外労働の計算式は、

1カ月の総労働時間―その月の法定労働時間(その月の総暦日数÷7×40)

です。

残業は残業手当を支払うため、時間外労働は社員の健康管理のために時間算出します。経営者や担当者はもちろんそう覚えておくべきです。

③残業時間だけで過重労働対策を行うのは高リスク

残業は、人件費が発生します。給与計算で把握ができるため、残業だけが過重労働対策においてクローズアップされやすいです。
残業による健康管理では、若い社員だけが対象となりやすく、健康のリスクが高い中高年の裁量労働者、管理職などは対象外になりやすくなります。
時間外労働を正確に把握している職場は少ないと思われ、多くの会社は高いリスクを抱えているといえます。

雑誌などで過重労働問題の記事を読むと、時間外労働も「残業」という言葉で一緒くたにしている弁護士や学識者もよく見受けます。
労働法に疎い管理職や一般社員が誤解をしないよう、時間外労働時間(1週間あたり40時間を超える部分)という言葉を実務では使うようにしたいものです。

残業と時間外労働は、明確に違うのです。

④会社外での労働や休日出勤・深夜勤務にも配慮が必要

タイムカードを導入して勤怠を正確に把握し、時間に誠実に働ける職場づくりは、過重労働対策の基本です。
出退社時間や労働時間を把握するため、セキュリティーカード、パソコンのログや駆動時間を利用する方法もあります。
自宅での仕事・調べ物・電話対応・接待なども労働時間と認める判例が最近増えていますので、自宅に仕事を持ち帰ったりみなし労働で働いたりする社員が多い会社ほど、時短を促進する必要があります。

時短以外で大事なこと

①最低週1回しっかり休んでもらうことも重要!

労働基準法では、毎週少なくとも1日の休日を与えなくてはいけないと定めています。時間外労働が少なくても、1ヶ月に4日以上の休日がない時点で、違法状態であり、休日労働を強いているともいえ、過重労働だと考えるべきです。
休日は暦日で取ることが原則です。従って休日の前日は零時までに退社させなくてはいけません。
これは盲点になりやすいので注意してください。

②徹夜明けの社員は即退社させる、その週は残業させないこと

36協定では、1週間・1日の時間外労働・休日労働の限度は15時間と定められています。15時間に法定労働時間8時間と休憩時間1時間を足すとちょうど24時間になります。つまり、仕事で徹夜をしたその週は、これ以上、時間外労働をさせられないということになります。時短促進の観点からもそういえます。

心臓病や脳卒中の発作は、朝方に多く出やすいという統計があります。徹夜で疲れた人を徹夜明けの日まで無理して働かせることは、健康上のリスクが非常に高くなります。
やむを得ない理由で徹夜をして仕事をしたとの報告を受けたら、徹夜明けの日は早く退社をして休むように命じるべきです。

③深夜勤務は、それだけで過重労働です

ご存知のように、22時から翌朝5時まで働くことを深夜勤務といいます。深夜勤務者には、年2回の健康診断が義務付けられています。深夜勤務は、それだけで過重労働だと考えて良いです。

④社員は、きちんと休憩時間をとっていますか?

労働基準法は、労働時間が8時間を超えたら、1時間以上の休憩を与えると定めています。効率の良い仕事と社員の健康のためしっかり休憩はとってもらいましょう。

⑤時間外労働・休日出勤が月80時間以下であっても安心できません

月80時間程度の時間外労働・休日労働があれば、その社員は過重労働状態にあると考えます。月80時間を超えたら、翌月は、なるべく時間外労働・休日労働はさせない配慮が必要です。

時間管理の徹底が重要

現在、人材不足などで、プレイングマネジャーとして仕事をしている管理職も多いため、自分の仕事をこなすのが精一杯で、部下の時間管理にまで頭が回らない管理職が増えています。
若い管理職の職場では、どうしても時間管理が甘くなり、過重労働が放置される傾向があります。
労働時間を正確に把握し、時間に誠実に仕事ができるような管理職をたくさん育てることこそが過重労働対策の基本です。

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